故ジル・ローランを偲んで

A blog to remember Gilles Laurent, who died in Brussels Attack in the middle of making his film about Fukushima / this blog is organized by his wife Reiko Udo

普遍的な「ふるさと」について考えた。(プレミア試写会in北九州を終えて)06/01/2017

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私の地元で、今年最初の試写会。1月6日、「プレミア試写会 in 北九州」に続々ご来場のお客様。

 

上映前のスピーチにはいつも一応原稿を用意していくものの、お客様を目にした時の気持ちを優先して、結局はアレンジしてお話ししています。けれども手元に用意していた原稿を、記念にここに転載させて頂きます。内容はほぼこのような感じでお話しさせて頂きました。

 

本日は皆様、お寒い中そして年が明けたばかりのお忙しい中、こんなにたくさんの方々にお集まり頂きありがとうございます。

映画「残されし大地」監督ジル・ローランの妻、鵜戸玲子と申します。

 

ここ北九州市は私の故郷で、生まれて18歳までの青春を過ごした場所です。幸い両親が健在で友人もたくさんいますので、度々帰省しており、たった今も二人の子供を連れて帰省している最中です。夫ももちろん、生前は時々一緒にこちらに来ていました。一番最後は2年前の年末年始でした。思えばその最後の北九州滞在中は、この映画の脚本を必死に執筆していた頃です。1年前の年末年始は、ちょうどこの映画の編集作業のためにベルギーに帰っていました。そしてそのまま、母国に滞在中に残念ながら地下鉄テロに巻き込まれて亡くなりました。

 

今回の帰省中に時間があったので、彼が亡くなった際に背中に背負っていたリュックの中のコンピューターの中身、復元されたハードディスクの内容を調査していました。その中に、亡くなった当日、3月22日の午前8時53分という記録のついたファイルを発見しました。それは、この映画の「あらすじ」を紹介するための短い文章でした。爆発が起きたのは午前9時11分ですから、ほとんどその直前、ということになります。

 

彼が残した映画の「あらすじ」にはこうあります。

「福島での事故から5年(※当時)が経ち、そこに残り続けた人々、そして避難していたが帰宅準備を進める人々の運命はどうなるのだろうか。未来なき未来は、彼らにとってどのような形で現れてくるのだろう。土地への愛着は今日、なお強まり、そして生命への危険はゆっくりと進行し・・・」と書きかけの様子で終わっています。

 

ここにもありますように、この映画は福島の映画です。けれどもそれと同時に、普遍的な、「故郷というものに対する人間の愛着」について描いた映画でもあります。自分の居場所が、ふるさとが、ある日、こうなったらどうなるんだろうと想像する気持ち、寄り添う気持ちを持つことだけにも、大切であるということを彼の映画は教えてくれます。ちなみに彼のベルギーの故郷は、ブイヨンというベルギー南部の田舎町で今は自然豊かな小さな観光地ですが、少し前まではなんと長い間、ここ北九州市のように鉄鋼で栄えた町のひとつだったそうです。

 

本日のこの上映会を企画してくれたのは私の高校時代の仲間たちです。先ほどご挨拶に出てくださった主催者チョウドリさんをはじめ、多くの方々に支えられて実現しました。ここで改めて、お手伝いそしてご協賛くださった方々にお礼を申し上げたいと思います。本当にありがとうございます。そして今日は同じ高校の後輩にあたります、ピアニスト矢持真希子さんの素敵なピアノ演奏が華を添えて下さいます。本当にありがとうございます。

 

映画はこの春3月、有難いことに東京の渋谷を皮切りに全国順次劇場公開される予定です。今日はいち早くここでお届けしますが、是非、福岡の劇場に来た際にも、周囲の方に宣伝してお誘い合わせの上、ご来館いただけるとこの上なき幸いです。

 

それではどうぞごゆっくり、本日の会をお楽しみください。

 

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友人の手作りのパネル。この日は私もジルがそばにいることを、たびたび感じました。