故ジル・ローランを偲んで

A blog to remember Gilles Laurent, who died in Brussels Attack in the middle of making his film about Fukushima / this blog is organized by his wife Reiko Udo

ジルとの不思議な旅 ➀ 王さまと私

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ベルギー国王夫妻とお子様たち。即位直後の2013年7月
Vol. 1 王さまと私
 
ジルとの出会いから映画「残されし大地」が日本でも公開されるようになったいきさつまで。それを「もうすぐ10年。そしてもうすぐ、5年」と題して2月11日から3月22日まで一気に書き上げたブログ・マラソン40日間のあと。
 
これをずっと読んでくれていた友人から、
「なんだか『ニルスの不思議な旅』か、『ハーレクインロマンス』みたいだったよ。ジルさんとの出会いを皮切りに、世界のいろいろな場所へとあっちこっち移動して、いろんな経験をして。だって、職場結婚してこうなって・・みたいな普通のストーリーと全然違うでしょ」 そう言われてハッとした。
 
そうか、『ニルスの不思議な旅』・・。あの首にひもをつけたままのガチョウの背に乗って旅するアニメ、詳細は覚えてないけど、大好きで毎週テレビの前で見ていたなぁ。
『ハーレクイン』のほうはあまりちゃんと読んだことはないが、ただ普通に川辺に佇んでいたら、お金持ちのジェットが降りたって、そこで運命の出会いをして彼に連れ去れれ、翻弄されていく・・みたいなことらしい。
ジルは別に富豪ではなかったので(笑)度重なる移動も我々の場合はすべてマンパワーだったし、普通に毎回ヘトヘトになったものだが、確かに、ジルとの出会いなくしては経験しなかった冒険譚がいろいろあるといえばそうなのだろう。
 
 
今年の3月22日、ベルギー・テロ発生からちょうど5年の節目に。
地下鉄や空港で、ベルギーの国王とお妃さまがそれぞれの現場に花を手向けてくださっているニュース画像を見たとき、私にはもう一つ思い出すことがあった。
 
そうだ。確かに、ニルスの不思議な旅かハーレクイン風なのかもしれない。
 
 
ジルの亡くなった2016年の10月、日本に来日したベルギー国王とお妃さまにお会いして、直接お茶をしながらソファに座ってお話をしたのだ。
 
ジルが亡くなった年は、これまた奇しくも日本とベルギーの国交150周年にあたる年だった。それを記念した両夫妻の来日に際して、だった。
 
ベルギーではすでに国王夫妻と犠牲者家族とがお会いできる場が設けられていたそうだが、私はその時点で日本在住だったので、現地ではお会いすることが叶わなかった。それが悔しくて、大使館を通してお手紙を渡していただき、なんとしても日本に来たらお会いできないかと交渉していた。
 
お会いできたら何があるというわけではない。それにただでさえお忙しいであろうスケジュールの中、一種のワガママかもしれないが、心から癒しを欲していたのだと思う。被災地に天皇陛下ご夫妻がいらっしゃると、一気に国民の気持ちが晴れ上がるのが理解できる気がした。お手間を取らせてごめんなさい。でも、どうしても会わせていただきたいのだと。
 
その念願が叶い、10月のある日、私たち家族と別のもうひとつの日本人家族、同じ地下鉄テロに巻き込まれて一時重体になったものの意識を取り戻した瀧田さんのご夫妻とが、ホテルニューオータニに招かれた。
 
瀧田さんの奥様からは事前に丁寧なメールをいただき、少し前にカフェでお会いしていた。瀧田さんご本人は黒い手袋をされていて、それを取って見せてくださると火傷の後が生々しかった。
 
私は当時、4歳と5歳の子供、そして家に手伝いに来てくれていた母を伴って行った。
 
この時の様子は、実は私の以前のブログにも記録されていて、今読んでみると、あぁこんなことを子供たちは言っていたのか! など感じ、やはり書いておくことは記録のために必要なことだなと思い知った。
 
 
↑ここには、優しい国王陛下が、子供達のためにクッキーやジュースのお代わりを指示してくれたことなどが書かれてあるが、実はもう一つエピソードがあった。
ソファに着くなり、次女が「おしっこ・・」と言うのだ。付き添ってくれていた私の母が慌てって「トイレね・・」と呟きながら場所を探そうとしたら、国王が立ち上がって案内してくれそうになった(笑)。それを慌ててSPの誰かが代わって連れて行ってくれたのだった。そんなこともあったくらい、国王陛下はお優しかった。
 
 
私が持参した黒縁のジルの写真に見入った、この時の国王の申し訳なさそうな眼差しは忘れられない。人間ぽいなと思った。そして一言、呟きにも似た調子で「実はこんなことがベルギーで起きたのが恥ずかしいんだ・・」と口にした。ニュースや演説では流れない、本音のような気がした。
 
母も感心していたが俳優のように背が高くハンサム。お妃さまのほうはバービーのようにかわいらしく、喋り方も上品で母は「美智子さまみたいね‘・・」と、自分の一番の憧れだった人になぞらえていた。
 
黒服の警備がずらりと並んでいた、両陛下のいる階上のスイートまでの廊下。そんなプレッシャーにも押されて、最後に記念写真をお願いすることを遠慮してしまったことだけが悔やまれるのだが。
 
 
でも生きているうちに、直接国王と呼ばれる人を遠くから見かけるのではなく、アポイントを取ってお会いして、お茶を頂きながらお話する機会を持つことなど、そうはないものだろう。この一件は確かに、ニルスの冒険譚の一部のように不思議なものだった。
 
 
ニルス、というキーワードをもとに、今回のことをまた改めて思い出した。
 
そして、ニルスが元々住んでいた農場に帰ったのと同じように、私も一連のことがまるで夢だったかのように日本に住み、以前と同じ職場にいる。こうした話を公表する機会がない限りは、最近の知人は私のことを「子供が2人いて働いているシングルマザー」という以上の想像は難しいと思う。
 
けれどもニルスが同じ環境に帰ってきたとしても、違う人間に生まれ変わるほどの成長をしたように。私も多分、元と同じ容量と中身の私ではなくなっているのは確かだ。
 
 
夢ではなかったあの日々。

そして小さな存在ながら私なりに、そこから世の中の真実を垣間見たり、掴み取ったような気分がした瞬間の数々。

 

それをこのタイトルシリーズ「ジルとの不思議な旅」(「ニルスの不思議な旅」を文字っています笑)と題して、しばらくまた綴れるだけ綴って行きたい。

(エピソードの時期によって、ジルは生きていたり、もう亡くなっていたりするだろうが)