故ジル・ローランを偲んで

A blog to remember Gilles Laurent, who died in Brussels Attack in the middle of making his film about Fukushima / this blog is organized by his wife Reiko Udo

瀧田さんご夫婦のこと。About another couple involved in Brussels Attack

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10月10日。ホテルニューオータニの玄関には日本とベルギー、両国の国旗が飾られていました。

 

去る9月25日。
映画「残されし大地」のfacebookページに、あるメッセージが寄せられました。
 
突然のメッセージ失礼いたします。瀧田と申します。実は、私の夫も同じマールベークでの爆発に巻き込まれ、一時は意識不明の重体でしたが幸いにも一命を取り留めました。事件後、ジルさんと奥様の玲子さんのことを知り、とても気がかりに思っていました。
 
あ・・・あの瀧田さんだ! そしてその奥様からなんだ。
私は驚くとともに、とても嬉しかったのです。
実は私の方からも、そのうちにご連絡先を知りたいなと思っていたのです。
当時、新聞でお名前が報じられていたのでもちろん覚えています。
そして何しろ貴重な、あの現場を共有した仲間であり、日本人どうしです。
 
私は今回の事件を通して、家族や友人の愛の大きさや深さ、暖かさを直に感じることができました(テロは人間の前には無力ですね)が、きっと玲子さん、ジルさんの周りにも大勢の強力な友人や家族がいて、支えてくれているのだと思います。 ジルさんの初監督作である「残されし大地」も絶対に観に行こうと思っています。
 
「テロは無力」・・この瀧田さんの言葉に全てが表されています。
そうそう、同じ! 瀧田さんもそう感じられたんだと。
私も事件直後に、「テロなんて結局は失敗だ」という思いが胸に溢れました。
極端に最悪なことが起きれば、極端に最良のものをたくさん与えられる。
渦中にいたからこそ、心から感じられたこと。
当時の私の思いと、響き合ったような気がしました。
 
けれども、ある意味こちらは死んでしまったけれども、あちらは助かっている。
・・その状況を鑑みて、私の方にご連絡するのはしばらく躊躇されていたそうです。
 
私はといえば・・正直言うとあの事件当初、被害者が日本人でなければ何も伝えられない、公式なサポートなどもないということに多少歯がゆく思ったり、日本人の”死者”が居なければ事件の重大さはすぐに忘れ去られてしまうという世の中の状況に、取り残されたような気持ちがしていたことも確かでした。
 
けれども、一人でも多くの命が助かったというのは、本当に良かった。
生還する人にもきっと、生還するからこそ語れることがある。
だからそのうちに是非お会いしてお話がしたい。素直に心からそう思っていました。
 
コミュニケーションを続けているうちに、10月のベルギー国王夫妻来日に合わせて、
2家族ともホテルニューオータニに招ばれることが判明。
それではと当日、近所にあるカフェ・オーバカナルで1時間近く前に会い、お話をすることにしました。
 
先に到着していた奥様に20分ほど遅れて現れた、瀧田さんご主人のお姿を見た時、思わず涙が溢れました。もうお仕事に復帰されていて、お元気そうではあるのですが、黒い手袋で覆われた両手と、爽やかな笑顔のある意味アンバランスなお姿に胸が痛くなったのです。
あの時、夫が命を絶った時に、同じ爆風を受けて倒れた人々のうちの、お一人・・。
 
お会いできたこと、そのものが嬉しかった、涙でもあります。
同じ場所から戻ってきた生命に触れられたからなのか、不思議な再会を果たしたような、
安堵にも似た気持ちが湧き上がってきたのです。
 
聞けばお二人とも新婚生活でベルギーに住み始め、1年経ったところであの事件に遭遇。ご本人は事件当時の記憶は全くないということで、しばらくして目覚めた病院のベッドで、「どうしてここにいるの?」と自問自答する状態だったそう。
 
痛かった、怖かった、という記憶も何もないぶん、ベルギーに対して嫌な気持ちもなく、あちらに荷物も置いたままなのでむしろ早く戻りたい・・とすらおっしゃっています。療養のために東京に一時的に戻ってきて、仮住まいしているとのことで、会社の指示さえ出ればベルギーに戻りたいと。
 
私もこうなっても、やはりベルギー贔屓です。そう言ってもらえることに驚くとともに嬉しく、はっとするほど清々しい気持ちになりました。
 
一緒にホテルニューオータニまで移動し、来日されたばかりの国王陛下夫妻にお会いしに。14階に案内されると、ずらりと並ぶ黒服のSPの列。厳重警備の中、並んで国王夫妻のいらっしゃるスイートルームへ。
 
席をご案内いただいた時には、黒い手袋を外されていた瀧田さん。
 私が持っていたジルの遺影と、それから彼の両手をじっと見つめて、国王夫妻は本当に痛みいった表情で、私たちそれぞれの家族の状況を気遣ってくださいました。
身体の他の火傷の場所は、順次、移植手術をして・・など、いろいろな質問にも笑顔で答えていらっしゃいました。ご自分たちも4人のお子さんに恵まれている国王陛下夫妻は、私や子供たち、同行した私の母の顔なども代わる代わる見ながら、
「お子さんは大丈夫?」「お仕事は何をなさっているの?」「大変過ぎない?」など優しく質問を投げかけて下さいます。
 
事件に翻弄されながらも、前向きに生きているご家族が、
私の隣に、ここにもうひと組。
 
いつかまたゆっくりお会いしたいですね・・と言いながら、
それぞれの帰路につきました。
 
そのあとしばらくして11月に入った頃、奥様の方からまたメールが。
「ベルギーに戻れることになりました」とのこと。
そして、ジルさんの映画、必ずブリュッセルで見に行きます! と。
(ブリュッセルでの公開は11月まででした。)
 
早速、それから間もない11月中旬、映画をご覧頂いたそうで、感想を送ってくださいました。
 
福島の状況と、そして自分たちの状況と。
先入観のないままに、私が感じた気持ち、そしてジルが伝えたかったことと全くシンクロするであろう形で、胸に響いたことを伝えてくださいました。
 
以下、奥様から頂いた映画の感想を、許可を得て転記させて頂きます。
 
全部ではなく、抜粋した方が失礼がないかな?・・と思い、何度も読むものの、
私には一字一句が貴重で、結局、ほとんど短縮は出来ず・・。
 
瀧田さんご夫婦とはこれからもずっと交流を続けていきたいと思っています。
この場を借りて、再度、感謝の気持ちをお伝えしたいと思います。
これからも、同じ天変地異を経験した後の、
似た目線で世界を見つめ続けていく、二つの家族です。
 
 
こんにちは。今朝の地震はかなり大きかったようですが、皆様大丈夫でしたか?
最大1.4mの津波、加えて原発冷却炉の一時停止など、東日本大震災の時の恐怖がよみがえってきました。
ちょうど「残されし大地」を観た後すぐの出来事だったので、本当にびっくりしました。
 
ということで、お伝えしていた通り、昨晩無事観に行くことができました。
昨晩も本当に満員で、ひと席も空いていなかったように思います。日本人の方も何人もいらっしゃいました! 私は特に映画に詳しいわけでもなんでもない、本当のド素人で、ドキュメンタリー映画もほとんど見たことはございません。素人目線の感想でご容赦ください…。
 
一瞬で日本に帰ってきたかのような感覚になりました。空気感や温度が伝わってくるような、風の音や町の音、鳥や虫の声。一つ一つの音をこんなにも大事にするんだと、素直に驚きました。
ベルギーに来たからこそなおさら、日本に恋い焦がれる気持ちを強く感じさせられました。
きっとジルさんは、日本の自然を本当に愛してくれているんだなと思いました。
 
残られた方ひとりひとりの生活に目を向けると、大きな困難に直面し、悩み、奮闘し、揺れ動く実情をひしひしと感じます。でも福島の土地、自然自体は、何事もなかったかのように当たり前のように続いていて、以前のように魅力にあふれていて。
今回の経験で、自分たちの世界が足元から崩れ去り、時が止まったように感じても、周りの世界は平然と続くことを思い知りました。だから、映画の中で、荒廃している町と、対照的に魅力あふれる自然が共存している様子を、そんな自分達の経験に重ね合わせてしまいました。
 
先日、珍しく天気が良かったので近所のWoluwe公園まで一人で散歩したのですが、その時感じたこととすごく似ていたんです。テロでたくさんの人が傷つき、またいつ起こるかわからないテロに心のどこかで怯え、市内は軍隊が警戒して緊張感は高まるばかりで。でもちょっと公園に入れば、そんな不安とは無関係に、いつもの空気、時間が続いているんだなと思ったんです。そんな世界の常に対して感じた理不尽さや崇敬の念を、この映画からも勝手に感じ取ってしまいました。
 
感じたことをすべて、うまく伝えられないのがもどかしいです。本当に素敵な作品でした。これが最初で最後の映画になってしまったのは本当に残念でなりません。
そして、鵜戸さんとこの作品に出会わせてくれたジルさんに、改めて感謝しています。
またお会いできる日を楽しみにしています。ずっと応援しています。
 

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瀧田さんの奥様に送って頂いたその時のWoluwe公園の景色です。本当に綺麗。