ジルとの不思議な旅 ⑧ チワワのみかんちゃん
「みかんが死んだ」
・・そんな悲しいお知らせにフリーズしてしまった今週だった。
みかんというのは、以前、私がこのブログでも書いたチワワの「オーちゃん」
(http://gillesfilm.hatenablog.com/entry/2021/03/18/205951)
の血縁になるチワワで、私の仲良しの友人が飼っていた仔。従兄弟だった。
オーナー同士も仲良しなら、イヌ同士も本当に仲良しで、数日ぶりに会うと、もうそれこそ二匹で1個のボールになってしまうように、じゃれあって遊んでいた。
「もうすぐみかんがくるよ」
そう言うと、おーちゃんはハッとしたような顔をして、決まってドアの方まで走っていって、シルバー色の取っ手を見つめ始め、それがガチャンと動くまでじっと待っていた。実際にみかんが玄関まで到着するまで、動かずにそこにいたくらいだ。
2009年にジルが初めて日本に来たときも、オーちゃんのみならず、みかんも紹介した。私の耳元に残る不思議な発音、「Me-can(み・きゃん)」と呼ぶ独特の声は、ジルが発したものだ。それも今回、久しぶりに蘇って来た。
オーちゃんがベルギーに引っ越して、もう4、5年は経ってしまっていたころだったか。今でも本当に申し訳ない気持ちになるのだが、私はふと思い立って、ある実験をしてしまった。
場所はブイヨンのお義父さんの経営するホテルの3階、義両親のアパート。
どんな反応をするかしらと、「みかん!(が来るよ)」と一言、オーちゃんに向かって言ってみたのだ。
すると、オーちゃんは往時と変わらぬハッとした顔をして、そのアパートのドアまで走って行き、あの頃とは違う丸いクラシックな形のドアノブをじっと見つめ始めた。
犬は、”3日の縁を3年忘れない”というくらいだ。自分が1〜2歳の頃に大の仲良しだった友達のことを、忘れていなかったのも無理もない。
「ごめんね、ごめんね、オーちゃん、違うの。ここベルギーだから。言ってみただけ・・。」
オーちゃんは不思議そうな顔をして、そのうち待つことを諦めた。
犬には通じない冗談を言ってしまったことを恥じた。それと同時に、あんなに大親友だった二匹を、日本とベルギーとで引き離してしまったんだよな、ということにも申し訳なく思った。
そんなオーちゃんが一昨年、11歳で亡くなってしまったことは以前のブログにも書いたが、今度はみかんが、数日前に12歳で亡くなってしまったとの報せを受けたのだ。
白いフワフワした身体に、つぶらな瞳。今こうして何枚か昔の写真を見ても、オーちゃんと兄弟みたいだ。
私が2013年に日本に帰国して、しばらくぶりに職場復帰した頃。
ジルがまだ仕事で来日できなかったこともあり、子供二人を北九州市の実家に預け、私一人で東京で過ごした”2ヶ月”がある。
東京での定住先がまだ見つかっていなかったので、実はそのとき、居候をさせてもらっていたのが、みかんの飼い主さんである友人宅。
私がみかんと留守番をしていて、友人が夕方になって帰ってくるという日があった。
不意にみかんが玄関に向かって走り出した。私の耳にはまだなんの音も聞こえていない。すると見事にその3分後くらいに、友人が帰って来た。
一体、どこのあたりからもう、足音が聞こえていたのだろう。毎日こうやって、早いうちから走り出して、玄関で待機していたのだろうな。
尻尾を振って玄関で出迎えるみかんを、友人は「よしよし」と撫でていたが、実はそこにくるために走り出したのが数秒前ではなく、ゆうに数分前だったことを告げると、友人も驚いていた。
私も、それを目撃できたことが嬉しかった。
犬ってすごい。私たちにはない身体的能力、そしてそこ知れぬ忠誠心を持っていることに、改めて深く感じ入ってしまった瞬間だった。
みかんを思い出すと、もちろんオーちゃんのことを思い出す。そして両方をよしよししてくれていたジルのことも思い出す。
みんな、今となっては、たったの10年やそこらで虹の向こうへと旅立ってしまった。
私は今回、あらためて天国にいるオーちゃんに向かって、「みかん!(が来るよ)」と声を出して叫んだ。
今度は本当。
みかんがそっちにやってくるから、ちゃんと迎えに行って。久しぶりに合流して、また1個のボールみたいになって、遊んで。そしてジルにも、久しぶりだね、オーちゃんよかったねと言って欲しい。
私自身がみかんにもう会えないのは寂しいけれども、「あちら(天国)チーム」が増えて、きっと再会を喜んでくれているのではと思うと、少しだけだが、心が救われる。
みかん、今まで生きていてくれてありがとう。